殿堂入り怖い話
リアル

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(下手な長崎弁を記憶に頼って書くが見逃してな)

祖母「Tちゃん、もうよかけんね。S先生が見てくれなさるけん」
S先生「久しぶりねぇ。随分立派になって。早いわねぇ」
祖母「S先生、Tちゃんば大丈夫でしょかね?」
祖父「大丈夫って。そげん言うたかてまだ来たばかりやけんS先生かてよう分からんてさ」
祖母「あんたさんは黙っときなさんてさ。もうあたし心配で心配で仕方なかってさ」

何でだろう…ただS先生の前に来ただけなのにそれまで慌ていた祖父母が落ち着いていた。 それは両親にも、俺にも伝わってきて、深く息を吐いたら身体から悪いものが出ていった気がした。
両親はもう体力的にも精神的にも限界に近かったらしく、「疲れちゃったやろ?後はS先生が良くしてくれるけん、隣ば行って休んでたらよか」と人懐こい祖父の言葉に甘えて隣の部屋へ。

S先生「じゃあTちゃん、こっちにいらっしゃい」S先生に呼ばれ、向かい合わせで正座した。
S先生「それじゃIさん達も隣の部屋で寛いでらして下さい。Tちゃんと話をしますからね」
S先生「後は任せて、こっちの部屋には良いと言うまで戻って来ては駄目ですよ?」
祖父「S先生、Tちゃんばよろしくお願いします!」
祖母「Tちゃん、心配なかけんね。S先生がうまいことしてくれるけん。あんたさんはよく言うこと聞いといたらよかけんね。ね?」

しきりにS先生にお願いして、俺に声をかけてくれる祖父母の姿にまた涙が出てきた。 泣きっぱなしだな俺。
S先生はもっと近づくように言い、膝と膝を付け合わせるように座った。
俺の手を取り、暫くは何も言わず優しい顔で俺を見ていた。 俺は何故か悪さをして怒られるじゃないかと親の顔色を伺っていた子供の頃のような気持ちになっていた。
目の前の、敢えて書くが自分よりも小さくて明らかに力の弱いお婆ちゃんの威圧的でもなんでもない雰囲気に呑まれていた。
あんな人本当にいるんだな。

S先生「…どうしようかしらね」
俺「…」
S先生「Tちゃん、怖い?」
俺「…はい」
S先生「そうよねぇ。このままって訳には行かないわよねぇ」
俺「えっと…」
S先生「あぁ、いいの。こっちの話だから」

何がいいんだ!?ちっともよかねーだろなんて気持ちが溢れて来て、耐えきれずついにブチ撒けた。本当に人として未熟だなぁ、俺は。

俺「あの、俺どーなるんすか? もう早いとこ何とかして欲しいんです。 大体何なんですか?
何でアイツ俺に付きまとうんですか? もう勘弁してくれって感じですよ。
S先生、何とかならないんですか?」

S先生「Tちゃ…」
俺「大体、俺別に悪いこと何もしてないっすよ!?確かに□□(心霊スポットね)には行ったけど俺だけじゃないし、何で俺だけこんな目に会わなきゃいけないんすか? 鏡の前で△しちゃだめだってのも関係あるんですか? ホント訳わかんねぇ!!あーっ!苛つくぅぁー!!」

「ドォ~ドォルルシッテ」
「ドォ~ドォルル」「チルシッテ」

…何が何だか解らなかった。(ホントに訳解んないので取り敢えずそのまま書く)

「ドォ~。 シッテドォ~シッテ」

左耳に鸚鵡か鸚哥みたいな甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。
それが「ドーシテ」と繰り返していると理解するまで少し時間がかかった。
俺はS先生の目を見ていたし、S先生は俺の目を見ていた。 ただ優しくかったS先生の顔は無表情になっているように見えた…。

左側の視界には何かいるってのは分かってた。 チラチラと見えちゃうからね。
よせば良いのに、左を向いてしまった。首から生暖かい血が流れてるのを感じながら。

アイツが立ってた。 体をくの字に曲げて、俺の顔を覗き込んでいた。
くどいけど…訳が解らなかった。起きてることを認められなかった。
此処は寺なのに、目の前にはS先生がいるのに…何でなんで何で…。
一週間前に、見たまんまだった。 アイツの顔が目の前にあった。 梟のように小刻みに顔を動かしながら俺を不思議そうに覗き込んでいた。

「ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ?」

鸚鵡のような声でずっと質問され続けた。
きっと…林も同じようにこの声を聞いていたんだろう。
俺と同じ言葉を囁かれていたのかは解らないが…。
俺は…息する事を忘れてしまって目と口を大きく開いたままだった。
いや、息が上手く出来なかったって方が 正しいな。たまに【コヒュッ】って感じで息を吸い込む事に失敗してた気がするし。
そうこうしているうちに、アイツが手を動かして顔に貼り付けてあるお札みたいなのをゆっくりめくり始めたんだ。

見ちゃ駄目だ!! 絶対駄目だって分かってるし逃げたかったんだけど動けないんだよ!!
もう顎の辺りが見えてしまいそうなくらいまで来ていた。
心の中では「ヤメロ!それ以上めくんな!!」って叫んでるのに口からは「ァ…ァカハッ…」みたいな情けない息しか出ないんだ。
もうやばい!! ヤバい!ヤバい!ってところで

「パンッ!!」

って。 例えとか誇張でもなく“跳び上がった。 心臓が破裂するかと思った。

「パン!!」

その音で俺は跳び上がった。正座してたから体が倒れそうになりながら後に振り向いてすぐ走り出した。
何か考えてた訳じゃなく体が勝手に動いたんだよね。でも慣れない正座のせいで足が痺れてまともに走れないのよ。
痺れて足が縺れた事とあんまりにも前を見てないせいで頭から壁に突っ込んだがちっとも痛くなかった。
額から血がだらだら出てたのに…、それだけテンパって周りが見えてなかったって事だな。

血が目に入って何も見えない。手をブン回して出口を探した。けど的外れの方ばっかり探してたみたい。

「まだいけません!」

いきなりS先生が大きい声を出した。障子の向こうにいる両親や祖父母に言ったのか俺に言ったのか分からなかった。分からなかったがその声は俺の動きを止めるには十分だった。
ビクってなってその場で硬直。またもや頭の中では物凄い回転で事態を把握しようとしていた。
っつーか把握なんて出来る筈もなく、S先生の言うことに従っただけなんだけどね。
俺の動きが止まり、仏間に入ろうとする両親と祖父母の動きが止まった事を確認するかのように少しの間を置いてからS先生が話始めた。

S先生「Tちゃんごめんなさいね。怖かったわね。もう大丈夫だからこっちに戻ってらっしゃい」

「Iさん、大丈夫ですからもう少し待ってて下さいね」

障子(襖だったかも)の向こうからしきりに何か言ってのは聞こえてたけど覚えてない。血を拭いながらS先生の前に戻ると手拭いを貸してくれた。お香なのかしんないけどいい匂いがしたな。ここに来てやっとあの音はS先生が手を叩いた音だって気付いた。
(質問出来る余裕は無かったけど)

S先生「Tちゃん、見えたわね?聞こえた?」
俺「見えました…どーして?って繰り返してました。」
この時にはもうS先生の顔はいつもの優しい顔になってたんだ。俺も今度はゆっくりと、出来るだけ落ち着いて答える事だけに集中した。まぁ…考えるのを諦めたんだけどね。

S先生「そうね。どうして?って聞いてたわね。何だと思った?」
さっぱり分からなかった。考えようなんて思わなかったしね。

俺「?? …いや…、ぅぅん?…分かりません」
S先生「Tちゃんはさっきの怖い?」
俺「怖い…です」
S先生「何が怖いの?」
俺「いや…、だって普通じゃないし。幽霊だし…」

ここらへんで俺の脳は思考能力の限界を越えてたな。S先生が何が言いたいのかさっぱりだった。
S先生「でも何もされてないわよねぇ?」
俺「いや…首から血が出たし、それに何かお札みたいなの捲ろうとしてたし。明らかに普通じゃないし…」
S先生「そうよねぇ。でも、それ以外は無いわよねぇ」
俺「…」
S先生「難しいわねぇ」
俺「あの、よく分からなくて…すいません」
S先生「いいのよ」

S先生は、俺にも分かるように話してくれた。諭すっていった方がいいかもしれない。
まず、アイツは幽霊とかお化けって呼ばれるもので間違いない。じゃあ所謂悪霊ってヤツかって言うとそう言いきっていいかS先生には難しいらしかった。
明らかにタチが悪い部類に入るらしいけど、S先生には悪意は感じられなかったって言っていた。
俺に起きた事は何なのかに対してはこう答えた。
「悪気は無くても強すぎるとこうなっちゃうのよ。あの人ずっと寂しかったのね。話したい、触れたい、見て欲しい、気付いて気付いてーって、ずっと思ってたのね」
「Tちゃんはね、分からないかもしれないけど暖かいのよ。色んな人によく思われてて、それがきっと“いいな~。優しそうだな~って思ったのね。だから自分に気付いてくれた事が嬉しくて仕方なかったんじゃないかしら」
「でもね、Tちゃんはあの人と比べると全然弱いのね。だから、近くに居るだけでも怖くなっちゃって体が反応しちゃうのね」
S先生は、まるで子供に話すようにゆっくりと、難しい言葉を使わないように話してくれた。

俺はどうすればいいのか分からなくなったよ。
アイツは絶対に悪霊とかタチの悪いヤツだと決めつけてたから。
S先生にお祓いしてもらえばそれで終ると思ってたから…。それなのにS先生がアイツを庇うように話してたから…。

S先生「さて、それじゃあ今度は何とかしないといけないわね。Tちゃん、時間かかりますけど何とかしてあげますからね」
この一言には本当に救われたよ。 あぁ、もういいんだ。終るんだって思った。やっと安心したんだ。
S先生に教えられたことを書きます。俺にとって一生忘れたくない言葉です。

「見た目が怖くても、自分が知らないものでも自分と同じように苦しんでると思いなさい。救いの手を差し伸べてくれるのを待っていると思いなさい」

S先生はお経をあげ始めた。お祓いのためじゃ無くアイツが成仏出来るように。その晩、額は裂けてたしよくよく見れば首の痕が大きく破けて痛かったけど本当にぐっすり眠れた。(お経終わってもキョドってた俺のために笑いながらその日は泊めてくれた)

翌日、朝早く起きたつもりがS先生はすでに朝のお祈りを終らしてた。
S先生「おはよう、Tちゃん。さ、顔洗って朝御飯食べてらっしゃい。食べ終わったら本山に向かいますからね」

関係者でも何でもないんであまり書くのはどうかと思うが少しだけ。
S先生が属している宗派は前にも書いた通り教科書に載るくらい歴史があって、信者の方も修行されてる方も日本全国にいらっしゃるのね。教えは一緒なんだけど地理的な問題から東と西それぞれに本山があるんだって。
俺が連れていってもらったのが西の本山。本山に暫くお世話になって、自分が元々持っている徳(未だにどんなものか説明できないけど)を高める事と、アイツが少しでも早く成仏出来るように本山で供養してあげられるためってS先生は言ってた。
その話を聞いて一番喜んだのが祖母、まだ信じられなそうだったのが親父。最後は俺が「もう大丈夫。行ってくる」って言ったから反対しなかったけど。

本山に着くと迎えの若い方が待っていて、S先生に丁寧に挨拶してた。本堂の横奥にある小屋(小屋って呼ぶのが憚れるほど広くて立派だったが)で本山の方々にご挨拶。 ここでもS先生にはかなりの低姿勢だったな。
S先生、実は凄い人らしく、望めばかなりの地位(「寂しいけど序列ができちゃうのね」ってS先生は言ってた)にいても不思議じゃないんだって後から聞いた。
俺は本山に暫く厄介になり、まぁ客人扱いではあったけど皆さんと同じような生活をした。多分、S先生の言葉添えがあったからだろうな。

その中で、自分が本当に幸運なんだなって実感したよ。
もう四十年間ずっと蛇の怨霊に苦しめられている女性や、家族親族まで祟りで没落してしまって
身寄りが無くなってしまったけど、家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか…
俺なんかよりよっぽど辛い思いしてる人がこんなにいるなんて知らなかったから…。
厳しい生活の中にいたからなのか、場所がそうだからなのか、
あるいはS先生の話があったからなのか恐怖は大分薄れた。
(とは言うものの、ふと瞬間にアイツがそばに来てる気がしてかなり怯えたけど)

本山に預けてもらって一ヶ月経った頃S先生がいらっしゃった。
S先生「あらあら、随分良くなったみたいね」
俺「えぇ、S先生のおかげですね」
S先生「あれから見えたりした?」
俺「いや…一回も。多分成仏したかどっかにいったんじゃないですか?ここ、本山だし」
S先生「そんな事ないわよ?」

顔がひきつった。

S先生「あら、ごめんなさい。また怖くなっちゃうわよね」
「でもねTちゃん、ここには沢山の苦しんでる人がいるの。
その人達を少しでも多く助けてあげるのが私達の仕事なのよ」
多分だけどS先生の言葉にはアイツも含まれてたんだと思う。

S先生「Tちゃん、もう少しここにいて勉強しなさい。折角なんだから」

俺はS先生の言葉に従った。あの時の事がまだまだ尾を引いていて、まだここにいたいって思ってたからね。
それに一日はあっという間なんだけど…何て言うか時間がゆっくり流れてような感じが好きだったな。
(何か矛盾してるけどね)そんなこんなが続いて、結局三ヶ月も居座ってしまった。
その間S先生は(二ヶ月前に来たきり)こっちには顔を出さなかった。
やっぱりS先生の言葉がないと不安だからね。
でも、哀しいかな流石に三ヶ月もそれまで自分がいた騒々しい世界から隔離去れると物足りない気持ちが強くなってた。

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