占い・おまじない、呪い
魔漏

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246 (1/7) sage 2005/12/18(日) 01:24:20 ID:Uuc6/hu60
昨年の大晦日、私(Y)は夫のRと妹のA美と三人で北関東にあるRの実家に出かけた。
夫の実家は、近県では有数の古い歴史を誇るH神社を擁する、山間の町だ。
私達は、H神社に参拝しながら年を越そうと思った。
ところが、山道に入ると渋滞が酷く、とても0時前にH神社に到着できそうにない。
この後、1時頃に夫の実家に着く予定だったので、0時半迄には神社を出たい。
車中で話した結果、その夜はH神社への参拝を諦め、元旦過ぎに出直すことに決めた。
車を回して山を降ろうと脇道へ入った時、夫が「そういえば、この先にも神社があるよ。」
と言い、そこで年を越そうと提案した。
H神社の流れを汲み、火産霊神(ホムスビノカミ)を祀るその神社(G神社)は地元では知られており、
住人の間では、そこで年を越し、大混雑するH神社には、年明けにゆっくり参拝するのが
慣例だそうだ。H神社に行けずに、愚痴を溢していた妹のA美は、その提案に飛びついた。

私達は、畦道に車を止めてG神社へ向った。
中規模な神社の割には、参道に地元の人が長い行列を作っていた。
既に0時も近く、列に並んだら、夫の実家に着くのは何時になるか見当もつかない。
そんな時、A美が境内の右の外れを指差して、「あの御社がすいているよ。」と言った。
見れば、参道から少し外れた処にある、細く長い石段の先に、小さな境内社が見える。
時間もない為、私達はそこへお参りすることにした。

247 (2/7) sage 2005/12/18(日) 01:25:02 ID:Uuc6/hu60
境内社には青白い灯りが燈っていた。
社の隣には授与所があり、年老いた巫女が、御守を並べて黙って立っている。
「この社は町の文化財なんだよ。G神社は、戦時中に一度火事で焼け落ちた。その日も、
丁度今日と同じく大晦日で、沢山の参拝客が火に捲かれて亡くなる大惨事だったけれど、
この社は火の手を免れて、戦後、この境内社に移設されたんだ。本殿は、戦後建て直され
たものだよ。」Rが薀蓄を述べた。

私達は賽銭を投げ、来る年の安寧を祈願した。
目を瞑り、願をかけていた時、突然、A美が「え、なに、なに!?」と怯えた声を出した。
私も夫も驚いて目を開けた。A美は、腰を両手で押え、私達を見て何かを訴えようとした。
が、すぐに腰から手を離し、今度は、誰かを探す風に周囲を見回した。
「どうかしたの?」と、夫が尋ねると、A美は不安げな顔で、
「誰かが私の腰に抱き付いた様な気が。」と言い、次いで、付け加えた。
「それと、「あそんで」って声が聞こえた。」
私は、「気のせいでしょ。」とA美に告げたが、薄暗く人気のない社の雰囲気も手伝い、
少し怖くなった。隣では、夫が眉を顰めていた。「とにかく、帰ろうか。」夫が呟いた。

参道から年越しを告げる歓声が沸き起こった。
私達が、その社を去ろうとした際、授与所にいた巫女がポツリと「おまもりを持ってお行
き。」と呟いた。私と夫は、その老婆が俯いて、目を閉じたまま語りかける姿が気味悪く、
また、御守自体も、剥き出しの木に紋様が刻まれた得体の知れない代物である為、
受け取らなかった。ところが、A美は一つ貰ってきた。代金はかからなかった。

248 (3/7) sage 2005/12/18(日) 01:25:50 ID:Uuc6/hu60
帰りの車の中、A美が、腰が痛いと頻りに訴えるので、私は彼女の腰をさすってあげた。
「そんな変な御守どうするの?」と私が訪ねると、
妹は「なんか怖かったから、厄除けにもらった。」と答えた。
Rの実家には、予定の午前1時より少し前に着いた。
義父と義母が私達を出迎え、居間に通してくれた。義父は町役場の古株で、義母は教員。
二人ともこの町の生まれで、郷土史研究を趣味にしている。
新年の挨拶を手短に済ませた後、私と妹は客間で寝ることになった。
寝屋の支度をしていると、A美が、小さな飾り棚に置いてあったお手玉を手に取り、
「珍しいね。私、やったことがないや。」と言った。私達は、程なく床に就いた。

その夜更け、私は物音で目を覚ました。
慌てて部屋の明かりを点けると、隣で寝ていたA美が白目を剥き、口から泡を吹いて
痙攣している。私は驚いて「A美、A美」と何度も妹の名を呼んだ。
声が聞こえたのか、隣の部屋で寝ていた夫が飛び込んできた。
気が付けば、妹の発作は治まっており、スヤスヤと寝息を立てている。
私達は安心し、寝床に戻った。

明け方、私は再び物音で目が覚めた。A美が隣にいない。台所から音がする。
私は、恐る恐る台所を覗いた。A美が屈んでいた。冷蔵庫の扉が開いている。
なにやら、ぐちゃぐちゃと音がしていた。
見れば、A美は片手に大根を、片手に生肉を持ち、凄まじい形相で貪り喰っている。
私が、「親戚の家で、なんて真似を!」とA美を叱り、腕を掴んだが、妹は従うどころか、
私を振り払い、無言で食事を続けた。彼女の口の周りは、牛肉の血で染まっていた。
妹は、存分に食物を喰らった後、すっと立ち上がり、私には目もくれずに脇を通り過ぎて、
客間へ戻った。私は、急いで妹の後を追った。

249 (4/7) sage 2005/12/18(日) 01:26:34 ID:Uuc6/hu60
客間に戻ると、お手玉で遊ぶA美の後姿が目に入った。
何故か異様に上手で、耳慣れない唄を口ずさみ、五つ一遍に、延々と投げ続けた。
その顔には不思議な薄ら笑いが浮かんでいる。
私は気味悪く感じたが、とにかく気にしない事にして、三たび、床に就いた。
眠りについた私は、しかし、直ぐに誰かに揺り起こされた。
目を開くと、A美が私の上に覆い被さり、目を大きく剥いて、鼻がくっつく程近くで
無表情に私の顔を見つめていた。
「お話して。あんころもちとか、瓜子姫とか。」彼女が言った。
私は驚いて、すぐに顔をA美から離して、「あんころ?何?わかんない。」と答えた。
すると、妹は、突然私の首を両手で締め上げた。その余りの力の強さに、私は声も出せず、
必死に足をばたつかせ抵抗した。A美は薄ら笑っていた。

すぐに、隣室のRが、続いて義父と義母が飛び込んできて、三人がかりでA美を
取り押さえた。両手足を封じられたA美は、狂人の如く?いて、義父の腕に齧り付く。
義父は、すぐに逃れたが、腕には鮮血が迸り、深い口創が刻まれた。
それでも、三人は何とか、荒れ狂うA美を御し、紐で何重にも柱に括り付けた。
A美は、大きく目を剥いて私達を睨み、頭を激しく振回して「殺してくれるわ!!」
と、大声で喚き続けた。時折、おぞましい声で泣き叫んだ。

朝になって、義父がH神社の宮司に電話をかけ、宮司が家に駆けつけた。
宮司は、暴れる妹の姿を見て苦笑しながら、「あれはどこだね?」と義父に尋ねた。
義父は、私と夫に、「何か御守の様な物をもらったか?」と訊いた。
私は、飾り棚の上から例の御守を取ってきて、宮司に渡した。
「やはり。こりゃ、マモリだ。」宮司はそう呟き、H神社でA美に処置を施すからと、
義母に同行を求め、すのこで妹を簀巻きにして、車に載せて去って行った。
一行を見送った後、義父が突然、Rを怒鳴りつけた。「お前が一緒に居たんだろうが!!」
夫は下を向き、唇を噛んだ。

250 (5/7) sage 2005/12/18(日) 01:27:30 ID:Uuc6/hu60
「あれは、「魔漏」つー物だ。」
義父は、私にそう告げ、何処で手に入れたか説明を求めた。
私が、初詣の状況を詳しく伝えると、「やはりG神社なぁ。」義父は溜息をついた。
「Rには、幼少からこの町の歴史や伝承を教えたんだがなぁ。御霊信仰(ゴリョウシンコウ)は
只の言い伝え程度に思ってたか?」私は、昨晩夫が眉を顰めたことを思い出した。

義父は淡々と語った。
「G神社は、本来、御霊信仰から興った。禍津日神(マガツヒノカミ)を祀ることで災厄を抑え、逆
に、邪悪な神力を政に転用するものだ。それを、戦後の神道指令を契機に、H神社の一神
である火産霊神を主に祀り、禍津日神を境内社に祀ることで、事実上、そこに封じ込めた。」
その時、黙っていた夫が口を開いた。
「禍津日神を頼んで、あの一角には幽世(カクリヨ)に行けず現世(ウツシヨ)に迷う怨霊が集まる。」
義父は、深く頷いて、話しを続けた。
「そう。でも、だから参拝するなつーことではないよ。あの社で禍津日神に祈りを捧げれ
ば、禍力は鎮まるし、本来、御霊や怨霊の類は境内社の外には出られん。だが、その目的
を理解せずに参拝すると、おかしなことになる。」義父は暫く私を見つめ、言葉を続けた。
「授与所が在ったと言ったね。年老いた巫女が魔漏を配っていたと。」
私は頷いた。「あの境内社に、授与所なんぞないよ。」義父は、そう言って苦笑した。

「あそこで他の神に祈れば、禍津日神が怒り、禍を増長させる結果になる。」
義父が、諭す様に私に言った。
「だが、禍霊共が外に出るには媒体が必要だ。魔漏は、その代表だよ。その巫女は神霊の
権化かも知れん。若しくは、町の何者か。昔からここに居る者の中には、未だに御霊信仰
に傾倒する者も皆無ではない。」義父は、私に、初詣中にA美に異変があったか訊ねた。
私は、妹がおかしな声を聞き、何かに怯えていたこと、腰を痛がっていたことを伝えた。
義父は、「曲霊(マガツヒ)の好き嫌いもあるからなぁ。」と呟いた。
そして、言った。「A美ちゃんは波長が合ったのかね、霊に気に入られたんだなぁ。
で、そ奴は、魔漏に入り込み、まんまと境内社の外に出て、A美ちゃんに取り憑いた。」

251 (6/7) sage 2005/12/18(日) 01:28:21 ID:Uuc6/hu60
私が、俄には信じられない様子でいると、義父が優しく言った。
「A美ちゃんは大丈夫だ。宮司にしてみりゃ、手馴れたものだよ。信じようと信じまいと、
これからは、神仏の意味を理解してお参りすることが大事だなぁ。」

妹と義母は、元旦はH神社から帰らず、二日の朝に、家に戻ってきた。
A美は、H神社から戻った後、何事もなかったかの様に明るく振舞っていた。
私達は、三箇日をRの実家で過ごし、四日に東京へ戻った。
別れ際、義母がA美に、「一霊四魂。自分を見失わず、危うきには近づかず、直霊(ナホビ)に
て御魂が統治される様、何時もしっかりと自分の心に耳を傾けるんだよ。」と伝えた。
帰りの車中で、私は、妹に己の奇行を覚えているか訊ねた。
だが、妹は何も答えなかった。追究しようとする私を、夫が諌めた。

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