後味の悪い話
あだち充の短編

この怖い話は約 6 分で読めます。

・あだち充の短編(原作小説があるらしい)

雪の夜、バーで2人の男が飲んでいる。
一人は顔は男前だけど、身なりは汚らしく少し酔っている。以下A。
もう一人は大柄でおっとりした顔立ちで、身なりがいい。以下B。

AがBに「いい服ですね」と声をかけ「何の仕事をしているんですか?」と尋ねる。
「小さな会社を経営してます」とBは答え「このへんに住んでいるんですか?」とAに聞く。

「すぐ近くの汚いアパートですよ」とAは答え、自分がいかに惨めな人生を送ったかを語る。
仕事はまったくうまくいかず、妻には逃げられ借金漬けで、今も借金取りに追われているという。
その内容に「どうしてそんな話を私に」というBに、Aは「他人だから話せるんです」と悲しげに言う。
そしてAは、眩しくて楽しかった自分の子ども時代をBに語って聞かせた。

979 : 3 : 2012/05/01(火) 05:06:47.74 ID:SGrejIs80
Aは小さいころは田舎で暮らしていた。
勉強ができて強くて勇敢で、友人たちはAのことが大好きだったし、Aも友人たちのことが大好きだった。
けれどAは親の都合で、都会に引っ越さなくてはいけなくなった。
春、引っ越していくAに友人たちは「都会もんになんか負けるな」「がんばれ」とエールを送り、
Aはそれに「当たり前だ!」と答え、手紙を送るからと約束した。
けれど都会は田舎に比べてずっと勉強が進んでいた。
田舎では一番の成績だったのに、都会ではそれがまったく通用しなかった。
成績はひどいもので、「こんなことみんなに言えない」とAは手紙に「勉強なんて楽勝。都会もたいしたことない」と書いて送った。
最初は友人たちを心配させまいとしてついた嘘だった。
けれど手紙を書くたびに嘘を重ねてしまう。
学年で一番の成績、部活だって他のやつは相手にならない、有名な高校に入った、有名な大学に入った――
もう今さら「嘘だ」なんていえないところまできてしまった。
結局その後も、それらを「嘘だ」と言えないままに30年近く経ってしまった。
田舎にいる友人たちは、今でもずっと手紙の内容が真実だと思っている。

都会の暮らしに馴染めなかったAにとって、友人と呼べるような存在はその友人たちだけだった。

今度、その友人たちと数十年ぶりに会うのだとAは言う。
それを最後にして、ボロが出る前に彼らの前から行方をくらますつもりだと。
せめて友人たちの中でだけでもこの30年を立派に生きた人間でいたいんだとAは言う。

そしてAは最後に、友人たちの中でも一番チビだった少年のことを話す。
「同じ年なのにチビで泣き虫で、いつも俺を頼っていた。けど俺もあいつに頼られると何でもできるような気がしたんだ」
まるで弟のようだった。いつも自分のあとをついてきた。
「引っ越すとき、あいつと離れるのが一番辛かった」Aは懐かしげな、でもひどく寂しい目をして言った。

雪が積もってきたとバーのマスターが言い、Bは席を立つ。
「お先に」と言ってAの分の代金も一緒に払いバーを出た。

980 : 4 : 2012/05/01(火) 05:10:09.03 ID:SGrejIs80
そしてBは公衆電話から友人に「今度の同窓会、急用ができて行けそうにないんだ」と伝える。
「Aによろしく伝えておいて」とも。

Bはバーで偶然顔を合わせたときから、汚い身なりをしたその男が、あの30年前の春、都会に引っ越していったAだと気づいていた。
けれどAの変わりように驚き、名乗り出ることができなかった。
そしてA本人から現状を聞かされ、Aが自分たちに今の姿を見られたくないと感じていることを知り、
名乗らずに「他人」を貫き、そしてもう会わないことを決めたのだ。

電話を切ってBがボックスから出ると、雪の中にAがたたずんでいた。
Aの手にはナイフが握られていた。
「考えてみたらこんな汚い格好じゃ友人たちに会えないんだよ…。…服を交換してくれ。金も」
バツの悪そうな顔をしながら、Aはナイフをちらつかせる。
Bの目に涙が滲むのを見て、「殺したりしないから泣くなよ」と慌てるA。Bはおとなしく服を交換する。
「だから泣くなって。いい年してみっともない」と戸惑うAに、「泣き虫は子どものころからなんだ」とBは言う。

Bのスーツは少し大きかったが「まあ大丈夫だろう。バレやしない」とA。「裏に名前が入ってる」と教えるB。
「こんなところ誰も見ない」そう言いながら確かめようとしたAは、そこに書かれた名前が自分の友人のものだと気づく。
Aは顔をあげる。

自分がさっきまで着ていた汚いコートに身を包んだBが涙を流す姿と、小さかった頃のBの泣いている姿が重なる。
Aのナイフを持つ手は震えていた。

楽しかった子ども時代。Aのあとをついてくる小さなB。

『このまま春なんか来なきゃいいのにね』
『春が来なきゃAは都会になんか行かなくていいんだもんね』
『そうすればずっとここにいられるんだよね? ね、A』

雪の上に一人の男が倒れていた。男の体の下の雪は、血で赤く染まっていた。

981 : 本当にあった怖い名無し : 2012/05/01(火) 05:12:23.83 ID:SGrejIs80
>>977-980
長くなってすみません、以上です。
二つ目の方は、最後に倒れている男がAなのかBなのかはわからない感じで
けど倒れてるのがAでもBでも救いようなくて凹んだ

983 : 本当にあった怖い名無し : 2012/05/01(火) 08:16:12.05 ID:Hw8FMlsz0
あだちは昔はこんなだったんだぜ・・・
http://www.chukai.ne.jp/~gallery/baka47.html

984 : 本当にあった怖い名無し : 2012/05/01(火) 08:16:49.66 ID:RANRHHGc0
>>981
どっちが死んだんだよう(つд`;)・゚・
朝っぱらから切ないよう…

985 : 本当にあった怖い名無し : 2012/05/01(火) 09:41:06.95 ID:+4GLH2OP0
>>981
上杉で再生したら後味悪さが倍増された

986 : 本当にあった怖い名無し : 2012/05/01(火) 13:20:28.52 ID:uEfZNX4W0
>>985
おまえのせいでAとBが達也と和也になって余計わけわからない最後になったじゃないか!!

987 : 本当にあった怖い名無し : 2012/05/01(火) 13:39:09.97 ID:CyJvsAl70
>>981
おもしろかった
あなた文章うまいね

988 : 本当にあった怖い名無し : 2012/05/01(火) 13:50:52.66 ID:/ctOje0C0
>>981
面白かったよ乙
原作読んでみたいんでタイトル教えてもらえないか?

989 : 本当にあった怖い名無し : 2012/05/01(火) 14:08:33.00 ID:meUpmpLkO
あだち充絵でそんなハードな話想像つかないな
でも実際読んだら落差でインパクトすごいんだろうな

990 : 本当にあった怖い名無し : 2012/05/01(火) 14:36:52.61 ID:bXBJFNftO
あだち充の短編はやるせない話側多いよ

9 : 本当にあった怖い名無し : 2012/05/01(火) 21:50:41.78 ID:l9Lh+9Rf0
>>1さん乙です!

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